ひさゆき耳鼻咽喉科です!今回は炎症を抑える「ステロイド」という薬物について紹介します。

耳鼻咽喉科では「ステロイド」を使う場面が意外と多くあります。「ステロイド」と聞くと、副作用が怖くてつい身構えてしまう方も少なくありません。ただ、そのイメージの多くは、飲み薬や注射薬を長期間・大量に使い続けた場合の話であることが多いです。耳鼻科で行う突発性難聴や顔面神経麻痺の治療は、期間を区切った短期間の使用が基本で、医師が体の状態を確認しながら安全に進めていきます。正しく理解して使えば、回復の助けになる心強い治療法です。今回は、耳鼻科でステロイド治療が必要になる代表的な病気と、使ううえでの注意点をまとめました。

どんな病気で使われるか

代表的なのは、突発性難聴、顔面神経麻痺(ベル麻痺やハント症候群)、重い花粉症・アレルギー性鼻炎です。突発性難聴は原因不明のまま突然聞こえが悪くなる病気で、内耳の循環障害やウイルス感染などが関わっていると考えられています。顔面神経麻痺は、顔を動かす神経がむくんで炎症を起こすことで生じます。アレルギー性鼻炎は、鼻の粘膜のアレルギー反応でくしゃみや鼻水、鼻づまりが続く状態です。

主な症状

突発性難聴では、ある日突然片方の耳が聞こえにくくなり、耳鳴りや耳閉感、めまいを伴うこともあります。顔面神経麻痺では、片側の顔が動かしにくくなり、まぶたが閉じにくくなることもあります。アレルギー性鼻炎では、くしゃみ、鼻水、鼻づまりが続き、日常生活に影響することも少なくありません。

検査での特徴

突発性難聴では聴力検査で難聴の程度や左右差を確認します。顔面神経麻痺では麻痺の程度を評価する検査に加え、血液検査で糖尿病の有無やB型肝炎の既往を確認します。ステロイドを安全に使うために、持病の有無を把握しておく必要があるためです。アレルギー性鼻炎では原因アレルゲンを調べる血液検査が行われることもあります。

治療法

治療の進め方は病気ごとに異なります。突発性難聴では、ステロイドを高用量から開始し、数日から1〜2週間かけて徐々に減らしていく方法が一般的です。軽症では内服、重症例では入院のうえ点滴で行うこともあり、鼓室内注射が選ばれることもあります。この使用期間は数日から長くても数週間程度と短く、重篤な副作用が出るリスクは比較的低いと考えられています。顔面神経麻痺でも発症からできるだけ早い時期に内服や点滴を始めることが望ましく、抗ウイルス薬を併用することもあります。アレルギー性鼻炎では、鼻に直接噴霧するステロイド点鼻薬が第一選択のひとつです。近年の点鼻薬は成分が血液中にほとんど吸収されない設計になっており、全身への影響は極めて少なく、長期使用でも比較的安全性が高いとされています。ムーンフェイスのような全身性の副作用は、点鼻薬の通常使用ではまず起こらないとされています。

予防法・注意しておきたいポイント

内服や点滴でステロイドを使うと、体内の副腎皮質ホルモンの分泌が一時的に抑えられます。自己判断で急に服用をやめると、だるさや血圧低下などの体調不良につながることがあるため、医師の指示通りのペースで減量することが大切です。また、糖尿病や胃潰瘍、B型肝炎の既往がある方は症状が悪化する可能性があるため、治療前に必ず伝えておきましょう。医師は胃薬の併用や血糖値の確認など、副作用を抑えるための工夫をしながら治療を進めています。免疫の働きが一時的に弱まることもあるため、手洗いやうがいなど基本的な感染対策も心がけておくと安心です。点鼻薬タイプは安全性が高いとされていますが、漫然と使い続けず定期的に状態を確認することが望ましいでしょう。「ステロイド」という言葉だけで必要以上に怖がらず、正しい情報をもとに医師と相談しながら使っていただければと思います。

耳の聞こえや顔の動き、鼻の症状で気になることがあれば、我慢せずに早めにご相談ください。突発性難聴や顔面神経麻痺は、治療を始める時期が早いほど回復の助けになるとされています。

※この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。


ひさゆき耳鼻咽喉科です!今回は代表的な漢方薬の一つを紹介します。

漢方薬には、名前がよく似ていて混同しやすい処方がいくつかあります。今回ご紹介する「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」と「桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)」も、その代表的な組み合わせです。どちらも「竜骨」「牡蛎」という、心を落ち着ける生薬を含んでいますが、体力や体質による向き不向きが異なります。

この処方の特徴

柴胡加竜骨牡蛎湯は、比較的体力があり、動悸や不眠、いらだちといった精神症状がある方に向けて、自律神経の乱れを整えながら気持ちの高ぶりを鎮める処方です。

桂枝加竜骨牡蛎湯は、体のバランスを整える桂枝湯をベースに竜骨・牡蛎を加えたもので、体力があまりない方向けに、気や血を補いながら神経の高ぶりを穏やかに鎮めていく働きがあります。

代表的な適応疾患

柴胡加竜骨牡蛎湯は、体力中等度以上で精神不安があり、動悸・不眠・便秘などを伴う方の高血圧症、動脈硬化症、神経衰弱症、神経性心悸亢進症、更年期神経症、小児夜啼症などに用いられます。

桂枝加竜骨牡蛎湯は、神経衰弱、小児夜尿症、性的神経衰弱、不眠症、神経質といった症状に用いられる処方です。

応用例

柴胡加竜骨牡蛎湯は、高血圧に伴う動悸や不安、更年期にみられる不安・不眠、小児の夜泣きなど、比較的体力のある方の緊張や興奮を伴う症状に応用されることがあります。

桂枝加竜骨牡蛎湯は、眠りが浅い、夢を見やすい、疲れやすいといった、体力があまりない方の不眠や神経質な状態、また小児の夜泣き・夜尿症などに応用されることがあります。

どちらの処方も特に特徴的な夢をよく見る方に有効であることが多いとされ、夢見の多さや寝つきの浅さが気になる方に向いている薬としても知られています。

代表的な副作用

いずれの処方にも甘草が含まれており、代表的な副作用として、むくみや血圧上昇、脱力感などがみられる偽アルドステロン症と、発疹やかゆみなどのアレルギー症状が知られています。

ただし、これらの症状はすべての方に生じるわけではありません。体質や症状の程度、そして薬を使う必要性とのバランスを見ながら、医師が判断して使用する漢方薬です。似た名前の二つですが、体力や体質によって向き不向きがありますので、気になる症状がある方は、ご自身の体質に合った漢方薬について相談してみるとよいかもしれません。

※この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。


ひさゆき耳鼻咽喉科です!今回は代表的な病気を紹介します。

「のどの奥に何か引っかかっている気がする」「首を動かすと耳の下が痛い」——そんな症状が続くとき、原因のひとつとして考えられるのが「茎状突起過長症(けいじょうとっきかちょうしょう)」です。あまり聞き慣れない病名かもしれませんが、耳鼻咽喉科ではときどき出会う疾患です。今日は、この病気について分かりやすくまとめてみたいと思います。

どんな病気か

耳のすぐ下あたりには、頭蓋骨から細く伸びる「茎状突起」という小さな骨があります。この骨が通常より長く伸びてしまったり、骨と靭帯の間が石灰化して硬くなったりすることで、まわりの神経や血管を刺激してしまう状態が「茎状突起過長症」です。1937年に米国の医師イーグルが初めて報告したことから、イーグル症候群とも呼ばれています。

茎状突起は普通、2.5cmまでを正常と考えられていますが、2.5cmを超えるものは約4%ほどあり、さらに症状を伴うものはその4%程度とされています。つまり、骨が長めの方は意外といらっしゃるものの、実際に症状として困る方はそう多くないということですね。

主な症状

症状は片側だけに出ることもあれば、両側に出ることもあります。代表的なものとしては、嚥下時の痛みや、耳へ放散する疼痛、咽頭部の異物感、圧迫感、食物の咽頭部停滞感などが挙げられます。

また、茎状突起‐頸動脈症候群では、顔面痛や頭痛、ときに肩こりなども含まれることがあります。症状が多彩なため、他の疾患や心因性のものと誤診されることも少なくないとされており、なかなか原因にたどり着きにくい病気のひとつともいえそうです。

「のどの違和感が長く続く」「原因不明の耳の痛みや首の痛みがある」というときは、一度こうした病気の可能性も含めて調べてみると安心かもしれません。

治療法

診断には、問診や身体検査に加えて、茎状突起を視覚化するためのX線やCTスキャンなどの画像検査が用いられます。特に3D-CTでの評価は、突起の長さや向きを立体的に確認できるため有用とされています。

治療は症状の程度によって段階的に考えられます。軽い症状の場合は、痛み止めなどの薬で様子をみることがあります。それでも改善しない場合には、神経ブロックやステロイド注射を行うこともあります。

そして、強い症状が続く場合には、根本的な治療として茎状突起の切除手術を行います。手術には口の中から行う方法と、首の皮膚を切開する方法があり、症状や状態によって選択されます。多くの場合、外科的介入によって症状の著しい緩和が得られると報告されていますが、継続的な経過観察が必要になることもあります。

 

原因不明ののどの違和感や、あごから耳にかけての痛みが長引くときは、我慢せずに耳鼻咽喉科を受診してみてください。CT検査などで比較的はっきりと診断がつくことが多い病気ですので、気になる症状が続くときは一度ご相談いただくと安心ではないでしょうか。

※この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。


【夏至の薬膳】一年で一番長い日に、体の「熱」と「消耗」をケアする食事のすすめ
季節の薬膳 | 2026年6月

【夏至の薬膳】
一年で一番長い日に、
体の「熱」と「消耗」をケアする食事のすすめ

■ はじめに
この記事では、季節の身近な食材を用いて薬膳の考え方により身体の調子を整える食事を提案します。

薬膳とは、中国伝統医学の考え方をもとに、食材が持つ性質や効能を活かして体のバランスを整える食事法です。特別な生薬だけでなく、日々の食卓にある野菜・果物・魚・肉なども立派な薬膳の素材。「食べることで体を整える」という考え方を、毎日の料理に取り入れてみましょう。

🌞 今回の季節のテーマ

夏至〜陽のエネルギーが頂点に達する。「心」を守り、消耗を防ぐ

6月21日頃、一年で最も昼が長い「夏至」を迎えます。太陽のエネルギーがピークに達するこの時期、体の中でも「陽気」が最大になり、活動的になる一方で、消耗も激しくなります。

薬膳では引き続き夏は「心(しん)」の季節。立夏の頃と比べ、気温と湿度がともに上がり、体への負担はさらに増します。この時期特有の不調として次のようなものが見られます。

  • 強い倦怠感・夏バテの始まり
  • 大量の発汗による気力・体力の消耗
  • 不眠・動悸・息苦しさ
  • 食欲不振・胃腸の重だるさ
  • 頭がぼーっとする、集中力の低下
夏至の養生ポイント:「心を養い、津液を守り、湿気を排出する」
冷たいものに頼りすぎず、体の熱を上手に発散させながら、失われた潤いと気力を補いましょう。

🥬 おすすめの食材(5種)

① スイカ

夏を代表する「天然の白虎湯」とも呼ばれる薬膳食材。体の熱を強力に冷まし、水分と津液を補います。利尿作用もあり、むくみにも効果的。冷蔵庫から出してすぐより少し室温に戻してから食べるのがおすすめです。

② 緑豆(もやし・緑豆春雨)

解毒・解熱の代表食材。体にこもった余分な熱と湿気を排出します。もやしや緑豆春雨として手軽に取り入れられ、熱中症予防にも昔から使われてきた食材です。

③ 冬瓜(とうがん)

体の熱を冷まし、余分な水分・むくみを排出する優れた夏野菜。胃腸への負担が少なく、食欲が落ちているときでも食べやすいのが特長。スーパーでカットされたものが手に入ります。

④ 梅・酢

発汗で失われた津液を引き締め、気力の消耗を抑えます。梅干しや酢を料理に使うことで夏の疲労回復を助けます。「酸味は気を収める」という薬膳の考え方に基づいた夏の必需品です。

⑤ 蓮の実・百合根

心を落ち着かせ、不眠・動悸・不安感をやわらげます。発汗が多いこの時期、心神が乱れやすいため積極的に取り入れたい食材です。スーパーでは百合根が入手しやすいです。

🍽️ おすすめのお料理

冷え・むくみ・虚弱傾向の方向け(虚証)
◆ 冬瓜と鶏ささみのやさしいスープ

冬瓜・鶏ささみ・生姜・塩昆布を使ったあっさりスープ。鶏ささみで気を補いながら、冬瓜で余分な熱とむくみをとります。消化への負担が少なく、夏バテで食欲がないときでもするすると食べられる一品です。梅干しを添えると津液の補充にもなります。

◆ 緑豆春雨と卵のさっぱり中華風スープ

緑豆春雨・溶き卵・ごま油・鶏がらスープのシンプルな組み合わせ。卵で気と血を補いながら、緑豆の解熱・解毒効果で体の内側から涼やかに整えます。疲れやすく胃腸が弱い方でも食べやすい優しい味です。

イライラ・赤ら顔・便秘傾向の方向け(実証)
◆ スイカと豆腐の冷製サラダ 黒酢ドレッシング

スイカ・絹豆腐・ミントを盛り合わせ、黒酢・ごま油・薄口醤油のドレッシングをかけた見た目も涼しい一品。スイカと豆腐の「清熱」効果に、黒酢の「気を収める」働きが加わり、のぼせやイライラを内側から鎮めます。火を使わず作れる点も夏にぴったりです。

◆ もやしとわかめの梅酢和え

もやし・わかめ・梅肉・米酢・薄口醤油を合わせた簡単副菜。緑豆由来のもやしとわかめで体内の熱と湿気を排出し、梅酢で気の消耗を引き締めます。便通を促す効果もあり、夏の便秘傾向の方に特におすすめです。

☀️

夏至を過ぎると、暦の上では少しずつ陽が短くなっていきますが、体への暑さの負担はこれからが本番です。「疲れた」「眠れない」「食欲がない」はすべて、体が助けを求めているサイン。今日の食卓に、一皿だけでも夏の薬膳を取り入れて、じりじりと続く暑さを、食べる力で一緒に乗り越えていきましょう!


漢方の体の見方 ―― 「気・血・水(きけつすい)」とは
漢方のはなし

漢方は体を「気・血・水」で診ています

漢方では、私たちの体を 「気(き)・血(けつ)・水(すい)」 という3つの要素が巡るもの、と捉えます。ここさえ分かると、難しそうな漢方が一気に身近になります。

体をめぐる3つの要素

西洋医学が臓器や数値で体を診るのに対し、漢方は「何が巡っているか」で体を捉えます。その巡るものが、気・血・水の3つです。まずはそれぞれの役割を見てみましょう。

気
き
生命のエネルギー
体を動かし、温め、心の働きを支える、目に見えない力。元気・やる気の「気」です。
足りないと:疲れ・だるさ・気力低下
滞ると:イライラ・不安・のどのつかえ
血
けつ
体をうるおす栄養
全身に栄養を運び、うるおいを与えます。血液とほぼ重なりますが、心の安定にも関わると考えます。
足りないと:貧血・乾燥・不眠・不安
滞ると:肩こり・頭痛・生理痛・くすみ
水
すい
血以外のうるおい
血以外の体液(リンパ・汗・尿など)の総称。体をうるおし、余分は外へ出します。
足りないと:のどや肌の乾燥
滞ると:むくみ・めまい・立ちくらみ・重だるさ
イメージするなら
川にたとえると分かりやすいかもしれません。気は水を押し流す「流れの勢い」、血と水は流れる「水そのもの」です。勢いが弱くても、水が足りなくても、どこかで詰まっても、川は淀みます。体の不調も、これとよく似ています。

不調は「足りない」か「滞る」で起こる

漢方の見立ては、案外シンプルです。気・血・水のそれぞれが 「足りない(不足)」のか、「滞っている(滞り)」のか ——基本はこの組み合わせで不調を整理します。代表的なパターンをまとめました。

要素 足りない(不足) 滞る(滞り)
気 気虚(ききょ)
疲れやすい・だるい・気力が出ない・かぜをひきやすい
気滞(きたい)
イライラ・不安・気分の波・のどや胸のつかえ感
血 血虚(けっきょ)
貧血ぎみ・肌や髪の乾燥・不眠・不安・めまい
瘀血(おけつ)
肩こり・頭痛・生理痛・経血の塊・顔色のくすみ
水 陰虚(いんきょ)
のどや肌の乾燥・ほてり・空咳
水滞(すいたい)
むくみ・めまい・立ちくらみ・体の重だるさ・雨の日の不調

※ 実際には複数が重なることが多く、たとえば「血虚+水滞」「血虚+気滞」のように合わさって現れます。漢方薬は、その組み合わせに合わせて選んでいきます。

この土台の上に、お薬がある

ここまで読んでいただけたら、漢方薬の使い分けはぐっと分かりやすくなります。たとえば、女性の不調によく使う2つの代表薬は、どちらも 「血が足りない(血虚)」 という同じ土台を持っています。違うのは、そこに何が重なるかです。

漢方は、覚えることが多くて難しい——そう思われがちですが、出発点は 「体は気・血・水で巡っている」 という、たったひとつの見方です。不調を「足りないのか、滞っているのか」と問い直すだけで、自分の体が少し読みやすくなる。次回からは、この見方を手がかりに、一つひとつのお薬を見ていきたいと思います。

※本資料は一般的な情報提供を目的としたものです。気・血・水の捉え方には流派による違いもあり、診断・処方は個々の状態によって異なります。

じめじめとした季節が近づいてくると、診察室の様子が少し変わってきます。

「なんか頭が重くて」「天気が崩れる前後にめまいがする」「低気圧のたびにつらい」——そういった訴えが増えてくるのです。以前は気のせいかなと流していた方も、最近はご自身で「気圧のせいだと思うんですが」と言葉にして来られることが多くなりました。それだけ、天候と体調の結びつきが広く知られてきたということかもしれません。

実際に近年、気象の変化が体調不良を引き起こす「気象病」という概念が医療の場でも注目されており、専門外来を設ける医療機関も増えてきています。気候変動の影響なのか、日本の天気そのものが不安定になってきているのか、その因果はまだ議論の余地があるところですが、患者さんの訴えが増えているのは肌感覚として確かなことと思います。


なぜ気圧で頭痛やめまいが起きるのか

少し整理してみましょう。

気圧が下がると、身体の外側を押す力が弱まります。するとその分、血管がわずかに広がりやすくなり、脳の血流に変化が生じます。また、自律神経のバランスも乱れやすくなるため、頭痛・めまい・だるさ・吐き気といった症状が重なって出ることがあります。

耳鼻科の領域でとくに関係が深いのが、「内耳」です。平衡感覚をつかさどる内耳は、内部にリンパ液が満たされていますが、このリンパ液の水分バランスが崩れるとめまいや耳鳴りが起きやすくなると考えられています。メニエール病がその代表ですが、気圧変化によって似たような状態が一時的に引き起こされることもあると思います。

つまり気象病のひとつの核心は、「体内の水分の偏り」にあると言えるでしょう。


五苓散とは何か

ここで登場するのが、五苓散(ごれいさん)という漢方薬です。

五苓散は、中国の古典医学書『傷寒論』に記載された、2000年近い歴史を持つ処方です。沢瀉(タクシャ)・茯苓(ブクリョウ)・猪苓(チョレイ)・白朮または蒼朮(ビャクジュツ/ソウジュツ)・桂皮(ケイヒ)という5種類の生薬で構成されており、「体の中の余分な水を流し、水分の偏りを整える」ことを得意とする薬です。

漢方の言葉では「利水剤」と呼ばれますが、単純な利尿薬とは異なり、余っているところから水を動かしつつ、足りないところには水分を保つという、ある種の双方向的な調整作用があると考えられています。現代医学的には、アクアポリンという細胞の水チャネルへの働きかけが関与しているという研究も出てきています。

気圧変化による頭痛に対しては、熊本大学などで動物実験レベルの基礎研究が行われており、また臨床レベルでも「気象変化に伴う頭痛に対する五苓散の有用性と安全性」という論文が学会誌に掲載されています。頭痛の頻度・程度・鎮痛薬の使用回数すべてにおいて有意な改善が認められたという報告で、気象病専門外来を持つ医師たちからも注目されています。

耳鼻咽喉科の領域では、メニエール病や前庭性片頭痛に対する五苓散の使用が報告されており、単独投与だけでなく呉茱萸湯(ごしゅゆとう)や苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)との組み合わせが有効だったという症例報告も出ています。私自身の診療でも、気圧変化のたびにめまいがひどくなる患者さんに試みて、「だいぶ楽になった」と言っていただけることがあります。


使いやすさという点について

五苓散の大きな特徴のひとつは、安全性の高さです。重篤な副作用の報告は少なく、漢方薬の中でも比較的あたりが柔らかいと言われています。妊娠中や授乳中の使用については主治医への相談が必要ですが、一般的には幅広い年齢層に使いやすい処方です。

ただし、正直に申し上げると、五苓散がすべての頭痛・めまいに効くかというと、そうではありません。「天気が悪いと頭が痛い=すべて五苓散で解決」という単純な図式は、臨床の現実とはやや異なります。五苓散が得意とするのは、体内の水分バランスの乱れが背景にある状態です。ほかの原因による頭痛やめまいには、別のアプローチが必要です。

あくまで「選択肢のひとつ」として理解していただけると、よいと思います。


飲み方のひとこと

気象病への使い方として、症状が出たときだけ飲む「頓服」的な方法と、一定期間毎日飲み続ける「定期投与」の両方が行われています。気象病専門医の報告では、まず定期投与で水分バランスを整え、その後必要なときだけ飲む形に移行するケースも多いようです。

飲み始めに尿量が増えることがありますが、これは水分が動いているサインであり、多くの場合しばらくすると落ち着いてきます。


梅雨と漢方の意外な相性

漢方の世界では、季節と体の変調を深く結びつけて考えます。梅雨は「湿邪(しつじゃ)」の季節と言われ、湿気が体の中にこもりやすく、水分代謝が乱れやすい時期とされています。その意味で五苓散が梅雨の季節に活躍するのは、ある種の必然とも言えるのかもしれません。

古い知恵と現代の研究が少しずつ重なり合ってきているのは、興味深いことだと思います。

天気が変わるたびに体調を崩す、そんな経験を繰り返している方には、一度かかりつけの医師に相談してみていただければと思います。五苓散が合う体質かどうか、試してみる価値はあるかもしれません。すべての人に効くとは言い切れませんが、「意外と楽になった」という方が、私の外来にも確かにいらっしゃいます。


本記事はあくまで一般的な情報提供を目的としており、個々の症状への医療的アドバイスを意図するものではありません。気になる症状がある場合は、必ず医療機関を受診されてください。


【立夏の薬膳】夏の始まりに備える、体を整える食事のすすめ
季節の薬膳 | 2026年5月

【立夏の薬膳】
夏の始まりに備える、
体を整える食事のすすめ

■ はじめに
この記事では、季節の身近な食材を用いて薬膳の考え方により身体の調子を整える食事を提案します。

薬膳とは、中国伝統医学の考え方をもとに、食材が持つ性質や効能を活かして体のバランスを整える食事法です。特別な生薬だけでなく、日々の食卓にある野菜・果物・魚・肉なども立派な薬膳の素材。「食べることで体を整える」という考え方を、毎日の料理に取り入れてみましょう。

🌿 今回の季節のテーマ

立夏〜夏の入り口で「心」と「熱」に備える

5月上旬、暦の上では「立夏」を迎え、いよいよ夏が始まります。気温が上がり始め、日差しも強くなるこの時期、体はまだ春から夏への切り替えの途中。薬膳の考え方では、夏は「心(しん)」の季節とされています。ここでいう「心」とは、心臓や血液の巡りだけでなく、精神・睡眠・感情とも深く関わる臓器のことです。

この季節によく見られる不調には、次のようなものがあります。

  • 暑さによるのぼせ・ほてり
  • 睡眠の浅さ、寝つきの悪さ
  • 気分の落ち込みやイライラ
  • 汗のかきすぎによる疲労感
立夏の養生ポイント:「心を養い、余分な熱を冷ます」
体に熱がこもりすぎず、かつ冷やしすぎない、バランスの取れた食事が大切です。

🥬 おすすめの食材(5種)

① トマト

体の熱を冷まし、津液(体の潤い)を補う食材。のぼせやほてりが気になる方に最適です。抗酸化作用も高く、夏の紫外線対策にもなります。

② 小豆

余分な水分・熱を体外に排出する働きがあります。むくみやすい方、体に熱がこもりやすい方におすすめ。夏の定番食材です。

③ 豚肉

薬膳では「陰を補う」食材とされ、体の潤いを守り、消耗した気力を補います。汗をかきやすいこの季節の体力維持に役立ちます。

④ きゅうり

体を冷やし、余分な熱と水分を排出します。夏野菜の代表格で、手軽に取り入れやすい食材です。冷やしすぎに注意しながら適量を。

⑤ 蓮の実(はすの実)/なければ百合根

心を落ち着かせ、睡眠を整える効果があります。不安感や眠れない夜が続くときに取り入れてみてください。スーパーでは百合根が入手しやすいです。

🍽️ おすすめのお料理

冷え・むくみ・虚弱傾向の方向け(虚証)
◆ 豚肉と百合根のやわらか煮

豚バラ肉または豚もも肉を、百合根・しょうが・だし醤油でやさしく煮込んだ一品。気と潤いを同時に補い、疲れやすい体をゆっくり回復させます。消化にもよく、食欲が落ちがちなこの季節でも食べやすい優しい味です。

◆ トマトと卵のふんわり炒め

中華の定番料理ですが、薬膳的にも優秀な組み合わせ。卵で気を補いながら、トマトで体の熱を穏やかに冷まします。ごはんが進む味付けで、虚弱傾向の方の体力維持にぴったりです。

イライラ・赤ら顔・便秘傾向の方向け(実証)
◆ 小豆と雑穀のさっぱりスープ

小豆・押し麦・昆布だしをベースにしたあっさりスープ。余分な熱と湿気を排出し、腸の通りをよくします。塩分を控えめにして、体の中から涼やかに整えましょう。

◆ きゅうりと豆腐の冷製ごまだれ和え

きゅうりと絹豆腐を、すりごま・酢・薄口醤油で和えたさっぱりメニュー。豆腐の「清熱・潤燥」の働きときゅうりの「熱を冷ます」効果で、のぼせやイライラを和らげます。火を使わず簡単に作れる点も◎。

🌱

夏の入り口は、体が変化に追いつこうと懸命に働いている時期です。「なんとなく疲れやすい」「眠りが浅い」と感じたら、それは体からのサイン。今日の食事に、一品だけでも季節の食材を取り入れてみてください。無理なく、おいしく、この夏の始まりを一緒に乗り越えていきましょう!


漢方の考え方「証」について|ひさゆき耳鼻咽喉科

ひさゆき耳鼻咽喉科です!今回は漢方の考え方について紹介します。

漢方医学では、病気を判断するための重要な概念として「証(しょう)」があります。「証」とは、その人の体の状態や病気の種類を明確にするための指標のようなものです。

体の内側で起こっていることを観察し、どのように治療すれば良いかを決定する際に、この「証」が大きな役割を果たします。たとえば、風邪を引いたときにも、体がどのような状態かによって治療法は異なります。このため、症状だけでなく、患者さんの体質や感情、生活環境なども考慮されます。

虚証と実証 — 2つのタイプ

漢方では、体の状態を大きく以下の2つに分類します。

虚
キョショウ

エネルギー・抵抗力が
不足している状態

  • 疲れやすい
  • 元気がない
  • 体力の低下
処方の方向性 体を活性化・補う漢方薬
実
ジッショウ

余分なエネルギー・毒素が
たまっている状態

  • 熱っぽい
  • 赤ら顔
  • 体力が充実している
処方の方向性 余分なものを取り除く漢方薬
↓

このように、症状だけではなくその背景にある体の状態を理解することが、適切な漢方治療につながります。虚証・実証の違いによって、同じ症状でも処方される漢方薬はまったく異なります。

大切なメッセージ

ただし、全部の症状を漢方だけで治すことができるわけではありません。他の治療法と併用することもあるため、病気の状態に応じて医師と相談することが重要です。また、自分の体の変化に敏感になり、気になる症状が続く場合や日常生活に支障をきたす場合には、専門のクリニックを受診することをおすすめします。

漢方の考え方は、多角的な視点から体の状態を読み取り、最適な治療法を見つけることを重視しています。

日々の健康を見つめ直すきっかけになれば幸いです。


ひさゆき耳鼻咽喉科です。

このたび院長久行は、健康・教育事業として電子書籍「読むワクチン」シリーズを刊行しました。

第一弾:哲学編① その”自分”、本当にあなたですか?

「自分らしく生きろ」と言われても、
そもそも“自分”って何なのか、考えたことはありますか?

・イライラしたとき、それが自分なのか
・考えすぎているとき、それも自分なのか
・人と分かり合えないとき、どこがズレているのか

なんとなく感じているけれど、
はっきり言葉にできないまま過ごしている人も多いと思います。

実は、こうした悩みの多くは
「自分の捉え方」から生まれています。

私たちは普段、
感情や思考をそのまま“自分”だと思っています。

だから、振り回される。

でももし、
感情は“天気のようなもの”で、
思考は“勝手に出てくるもの”だとしたらどうでしょう。

少し距離を置いて見られるだけで、
生き方はぐっと楽になります。

この本では、

・“私”とは何か
・感情や思考の正体
・人と分かり合えない理由
・AIと人間の違い

といったテーマを、短い対話形式でわかりやすく整理しています。

難しい話に見えるかもしれませんが、
1章ずつは短く、すぐ読める内容です。

ただし、読み終えたあとに残るものは軽くありません。

「自分に振り回されなくなる視点」

これが手に入ると、
日常のストレスの感じ方が変わります。

・イライラしにくくなる
・人間関係の負担が減る
・考えすぎから抜けやすくなる

そんな変化を感じるきっかけになる一冊です。

もし少しでも
「自分って何だろう」と感じているなら、
一度読んでみてもいいかもしれません。

→amazon商品ページ


ひさゆき耳鼻咽喉科です! 今回は漢方の考え方について紹介します。漢方では、患者さんの体調や症状を理解し、適切な治療法を見つけるために「証」という概念が用いられます。この「証」とは、身体の状態や病気のタイプを示すもので、具体的には症状や体質、環境などから導き出されます。この考え方を基にして、漢方医はそれぞれの患者さんに合った漢方薬を処方します。

さて、漢方における診断方法の一つに「舌診」があります。舌診とは、舌の色や形、苔の状態などを観察することで、体内の状況を判断する方法です。たとえば、舌が薄いピンク色をしていたり、苔が薄いときは、体が元気であることを示している場合が多いと考えられています。一方、舌が赤い、あるいは苔が厚い場合には、熱が溜まっている、もしくは消化の不調が考えられます。このように舌の状態から読み取れる情報は、漢方の治療において非常に重要です。

さらに、舌診は単独で理解するのではなく、他の診断方法と組み合わせて行います。たとえば、患者さんの脈を診たり、問診を通じて症状を聞き取ったりすることで、より詳細な情報を得ることができます。こうした多角的な視点から総合的に判断することが、漢方の真髄とも言えるでしょう。

ただし、舌診だけで全ての状態を把握することは難しいと言えます。場合によっては、別の検査や専門的な治療が必要になることもありますので、乳幼児や高齢者、または急激な症状の変化がある場合には、早めに医療機関を受診することをお勧めいたします。

漢方治療は患者さんに寄り添い、体調を整えるための一つの手段です。そのためには、患者さん自身の状態を理解することが大切です。舌診のような伝統的な方法を通じて自分の体を見つめ直し、より良い健康への道を考えていくお手伝いができればと思っております。